島は進化の実験場


ところが海洋島ではどうだろうか。海の中に裸で登場して、少なくとも陸上生物はゼロから出発した海洋島では、何百万年かの間にたまたま移住に成功した種類だけでフロラやファウナがつくられた。1)
(小野幹雄著、「孤島の生物たち」より)
<1. Introduction>
小笠原諸島は「東洋のガラパゴス」と呼ばれています。それは南米エクアドル沖にあるガラパゴス諸島と同様に、独自の進化を遂げた生物たち(=固有種、固有亜種)が多く住む島であるからです。では、なぜこれらの島において生物たちは独自の進化を遂げるのでしょうか?他の島々と何が異なるのでしょうか?
今回は、小笠原諸島とガラパゴス諸島を比べる形で、その理由をコンパクトにまとめてみたいと思います。
<2. 島があるとき突然出現する>
島は、大きく「海洋島」と「大陸島」に分けることができます。小笠原諸島とガラパゴス諸島は共に「海洋島」です。海洋島とは火山活動などにより成立し、以降一度も大陸につながったことのない島のことです2)。それに対し、大陸の一部が切り離されてできた島は大陸島と呼ばれています。これには琉球列島や日本列島も含まれます。
まず、図1,2を見てください。この図はgoogle earthにおいて、現在の火山(海底火山を含む)をピックアップしたものです。
小笠原と火山
図1
galapagos islandsと火山
図2
これを見て分かるように、これらの島は火山活動により出現しました。それぞれ、小笠原諸島は500万年前、ガラパゴス諸島は300万年以上前のことです。1), 3)
<3. “ある生物”がたどり着く>
大陸島では、島の面積により種数は限られるものの、大陸の動植物が乗っています。それに対し、生まれたばかりの溶岩のみでできた海洋島に生物はいません。そこに、土が運ばれ、植物の種子が運ばれ、虫がたどり着き、ようやく少数の生き物たちが住み着くようになっていきます。
生物が大洋中に隔離された海洋島へやってくるには、「海流」、「気流」、「鳥」の力が必要です。日本においては、黒潮や偏西風、East Asian-Australasian Flywayなど、「地理的な要因」が大きく影響しています。図3, 4
日本の海流
図3(教員研修センターweb site内、研修支援情報より)
East Asian-Australasian Flyway
図4East Asian-Australasian Flyway(The Australasian Wader Studies Groupのweb siteより引用)
しかし、これらの条件だけで、全ての生物がたどり着くわけはありません。それに加えて「生物学的な要因」が必要になります。海洋島には本来、大型哺乳類やカエルはいません。図5を見てください。この図は、陸上生物が海を越えて分散できる最大の距離を示したものです。4なお、東京から小笠原諸島父島までが約1000km、ガラパゴス諸島も南米大陸から約1000km離れています。つまり、陸ガメまでがぎりぎり到達できるようです。
よって、地理的かつ生物学的要因がそろった生物だけが海洋島にたどり着くことになります。図6, 7
<4. 島は進化の実験場>
以上に述べてきたように、海洋島には限られた生物のみで形成された生態系ができあがります。起源地に比べると種数も少なく、生態学的に特定のニッチが空白になることもあります。この幸運に恵まれて島にたどり着いた生物だけが、独自の進化を遂げる権利を与えられるのです。
植物は草食哺乳類の食害に対する防御機構(棘、異臭、毒物)を退化させ、果実や種子の巨大化により散布能が低下し、草本性の分類群が木本化して木本のニッチを埋めます。動物においては飛翔力を失った昆虫類や鳥類が進化し、捕食者からの逃避習性をもたなくなります。2)また、同一起源の種がニッチの細分化を起こしつつ適応放散して進化することも多い。図8
このような過程により、小笠原諸島やガラパゴス諸島では特色ある動植物が住む環境になりました。最後に、これらの島における固有種を表1にまとめます。
<5. Reference>
1)小野幹雄、孤島の生物たち、1994
2)巌佐庸・松本忠夫・菊沢喜八郎・日本生態学会、生態学事典、2003
3)神奈川県立 生命の星・地球博物館、東洋のガラパゴス 小笠原、2004
4)Chris Lavers、ゾウの耳はなぜ大きい?、2002
5)教員研修センター;web site
6)The Australasian Wader Studies Group;web site

予告


小笠原紀行・フィールドノートは完成しましたが、僕の野望はまだまだ終わっていません。
実は4章立てなのです。
1章;小笠原のフィールドノート
2章;島は進化の実験場
3章;島の生物の危機
4章;小笠原に夢はあるか?

とまだまだ先が長い…
サークルで発表した内容を元に大幅補強して伝えられればと思ってはいますが、完結するのはいつのことやら。。。
とりあえず、やる気のある内に予告だけしておきます!

続きを読む 予告

小笠原遠征のまとめ


070415追記
赤字は嬉しかった種、注目種を示しています。
緑字は小笠原の固有種、固有亜種を示しています。
青字は小笠原で問題になっている外来種を示しています。

【場 所】 父島、母島、小笠原航路、母島航路
【年月日】 2007年3月27日(火)~4月1日(日)
【観察者】 だいもで、オカP、imeko、カンダ
【環 境】 離島、航路
【観察種】

  1. カンムリカイツブリ     20. マガモ               39. オオセグロカモメ
2. アホウドリ             21. ヒドリガモ           40. カモメ
3. コアホウドリ           22. オナガガモ           41. ウミネコ
4. クロアシアホウドリ     23. スズガモ             42. クロアジサシ
5. オオミズナギドリ       24. トビ                 43. ツバメ
6. オナガミズナギドリ     25. オガサワラノスリ     44. ハクセキレイ
7. ハシボソミズナギドリ   26. チョウゲンボウ       45. オガサワラヒヨドリ
8. コミズナギドリ?        27. バン                 46. ヒレンジャク
9. セグロミズナギドリ     28. シロチドリ           47. イソヒヨドリ
10. コシジロウミツバメ     29. メダイチドリ         48. トラツグミ
11. オーストンウミツバメ   30. ムナグロ             49. オガサワラハシナガウグイス
12. クロウミツバメ         31. ダイゼン             50. メジロ
13. カツオドリ             32. キョウジョシギ       51. ハハジマメグロ
14. カワウ                 33. タカブシギ           52. アトリ
15. グンカンドリsp.(オオ?) 34. イソシギ             53. マヒワ
16. ダイサギ               35. ヒレアシシギsp.      54. ギンムクドリ
17. チュウサギ             36. トウゾクカモメ       55. ムクドリ
18. コサギ                 37. ユリカモメ           56. ハシブトガラス
19. アオサギ               38. セグロカモメ
参考記録. ヒメミズナギドリ?
番外. ザトウクジラヤギハツカネズミ
番外. オガサワラトカゲオガサワラヤモリグリーンアノールオオヒキガエル
番外. オカヤドカリ、アフリカマイマイ

【備 考】
07/03/27-07/04/01までの情報をまとめたものです。よく分からないものは「?」や「sp.」をつけています。後輩だけ見たものなどは書いていません。あくまで、僕が存在を確認した種です。

07/04/01 海は荒れ、東京に戻る


070415追記
赤字は嬉しかった種、注目種を示しています。
緑字は小笠原の固有種、固有亜種を示しています。
青字は小笠原で問題になっている外来種を示しています。

【場 所】 小笠原航路(父島→竹芝桟橋)
【年月日】 2007年4月1日(日)
【時 刻】 6:00~10:50
【天 候】 曇、波高く、うねりもひどい
【観察者】 だいもで、おかP、imeko、カンダ
【環 境】 航路
【観察種】

  1. クロアシアホウドリ(3)      3. オーストンウミツバメ(10)     5. トウゾクカモメ(1)
2. オオミズナギドリ(150)      4. ヒレアシシギsp.(1)           6. ツバメ(2)

【備 考】
波が高く、船はかなり揺れた。強風の中、ツバメが2羽渡っているようであった。鳥もあまり出なかった。
帰ってきたら無性にビールが飲みたくなり、浜松町にて一杯!
南の島との別れを惜しむと共に、現実世界に引き戻されるのかと、ダブルで悲しくなるのであった。

07/03/31 電信山遊歩道、小笠原航路


070415追記
赤字は嬉しかった種、注目種を示しています。
緑字は小笠原の固有種、固有亜種を示しています。
青字は小笠原で問題になっている外来種を示しています。

展望台
車道を登り、ようやく遊歩道の入り口へ
遊歩道
帰りは下りなんで楽チン。絶景なり。
ヤギ
しかし、ヤギの足跡や糞は遊歩道沿いに多数存在。
【県 名】 東京都
【市町村】 小笠原村
【場 所】 父島、二見港~電信山遊歩道
【年月日】 2007年3月31日(土)
【時 刻】 6:30~12:00
【天 候】 晴
【観察者】 だいもで、オカP、imeko、カンダ
【環 境】 離島
【観察種】

  1. カツオドリ(3)         7. オオセグロカモメ(1)  13. トラツグミC
2. オガサワラノスリ(3)   8. ツバメ(2)            14. オガサワラハシナガウグイス
3. シロチドリ(1)         9. ハクセキレイ(3)      15. メジロ
4. メダイチドリ(4)      10. オガサワラヒヨドリ   16. アトリ(1)
5. ムナグロ(40)         11. ヒレンジャク(17)     17. マヒワ(15)
6. キョウジョシギ(5)    12. イソヒヨドリ
番外. ヤギ

【雑 記】
自衛隊グラウンド、小学校、小笠原高校、奥村グラウンドを経て電信山遊歩道へ向かった。シギ・チドリ類はほとんどがムナグロであった。役場の横で、ヒレンジャクが群れでいた。遊歩道に向かう途中、オガサワラノスリのペアを近くで確認。崖で営巣をしているようであった。また、ヤギの親子連れを目撃。
また、遊歩道にもヤギの糞と足跡が多数あり、かなりの数が生息しているものと思われた。
見送り船
小笠原名物の見送り船!
時期的にお別れの季節の船であったため、港ではあちらこちらでお別れ会が行われていた。
【場 所】 小笠原航路(父島→竹芝桟橋)
【年月日】 2007年3月31日(土)
【時 刻】 14:00~17:45
【天 候】 晴
【観察者】 だいもで、オカP、imeko、カンダ
【環 境】 航路
【観察種】

  1. クロアシアホウドリ(3)    3. セグロミズナギドリ(2)      5. カツオドリ(15)
2. オナガミズナギドリ       4. オーストンウミツバメ(500)  6. クロアジサシ(15)
参考. ヒメミズナギドリ?    番外. ザトウクジラ

【備 考】
ヒメミズナギドリ?は参考記録。行動はセグロミズナギドリと同様に早いはばたきと滑空を繰り返していた。しかし、顔が明らかに白く、翼下面に黒い縁取りが見えなかった。識別には海鳥識別ハンドブックを参照した。本当に、この2つの特徴だけでヒメミズナギドリにしていいのかは僕にはわかりません。ただ、4人ともの見た感想はセグロミズナギドリなんだけど「顔が白い」であった。
【雑 記】
ザトウクジラは父島を出航してすぐに出現。胸鰭を海面を何度も叩きつける行動が見られ、まるで僕たちに手をふっているかのようであった。
オーストンウミツバメは多数いたが、彼らが出ると他の鳥が全くでない状態が続いた。