2022/9/27 酪農場のモニタリングに適した繁殖成績指標について


仕事柄、酪農場の繁殖成績について言及することが多いです。代表的な指標と、時間差や特徴についてごくごく簡単に説明し、オススメの繁殖成績指標をご自身でモニタリングする方法を説明します。

まず、分娩間隔です。これは最終分娩日から前回分娩日を引き算した値で、分娩の間隔を表します。分娩日は単純で記録が取りやすいため、牛群の分娩間隔を平均化した平均分娩間隔は農林水産省のデータにも頻繁に登場します。しかし、分娩が2回成立するまで数値が出ないこと、また各種流産などの影響も含まれてしまいます。農場の繁殖成績指標としては、変動が小さく、数値の変化として表れてくるのに約一年かかるため、時間差がかなりあります。

もっと時間差の小さい繁殖指標として、空胎日数が登場しました。これは、最終発情日から最終分娩日を引き算した値です。牛群の空胎日数を平均化した平均空胎日数は学術研究にも利用されており、王道の繁殖成績指標と言えます。妊娠中期以降の流産の影響も除外されています。しかし、それでも妊娠が確定するまで数値が出ないなど、時間差はまだ長いと言えます。

この平均空胎日数を利用して、さらに時間差を小さくしたものがJMRと言えます。これは、最終発情日から最終分娩日を引き算し、さらに生理的空胎日数(通常は60日)を引いた値です。「牛の子宮が妊娠可能になった時点から、どの程度日数が経っているのか」を数値として評価している言えます。非妊娠牛のJMRの数値も算出することで、即時反応性がさらに高まりました。このJMRを指標として用いている酪農家も多いですが、これらの値を算出してくれるような表計算ソフトが必要となります。牛群の評価として使う場合は、JMRを平均します。そのため、長期非妊娠牛が淘汰されるだけで、大きく数値が変動してしまうことも少なくないので、数値の変動の解釈は慎重にする必要があります。また、利用者の多くなってきたFarmnoteやU-motionでも基本画面から利用できません。

時間差が小さく、信頼性の高い繁殖成績指標は何なのか?そこで近年注目されているのが、発情発見率および妊娠率です。分娩後に生理的空胎日数(通常は60日)を経過した牛について,そこから現在または受胎するまでの発情周期 (21日)の回数をカウントし,授精(またはET)機会数で割り算した値です。こうすることで、21日毎の繁殖成績指標が算出できます。FarmnoteやU-motionでも基本画面から見られるよう採用されており、クリック一つですぐに確認できます。21日毎に、非妊娠牛に対してどのくらいの割合で交配ができているのかを示しているため、直感的な理解が容易なのが実感できます。

画面では発情発見率のみならず、妊娠数で割り算した妊娠率も併記されています。なお、妊娠率を発情発見率で割り算することで、受胎率も求められます。21日毎に、非妊娠牛に対してどのくらいの割合で妊娠が成立しているのかを示しています。この妊娠率を把握する事で、目標とする分娩間隔になるよう牛群をコントロールすることが可能になることが研究で示されています。コントロールの方法は、分娩後の繁殖供与日数を増減させます。

ですので、牛群管理で何か変更があった場合に、それを評価する時間差が少ない指標として21日毎の発情発見率、妊娠率、受胎率をモニタリングすることを強くお勧めします。FarmnoteやU-motionなどの繁殖管理ソフトウェアを導入されていなくても、月毎に交配済みの経産牛頭数や妊娠頭数を数え、非妊娠の経産牛頭数で割る事で、月毎の発情発見率、妊娠率をモニタリングすることは可能です。また、妊娠頭数を交配済みの経産牛頭数で割り算する事で月毎の受胎率の傾向は分かります。月毎に数えるのが大変だというのであれば、繁殖検診時などに、パッと計算しておくと良いでしょう。

Farmnoteの画面を以下に示しました。左下のレポート一覧にある「妊娠率と発情発見率」をクリックすることで見ることができます。


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2022/9/6 日本獣医学会学術集会で研究発表をしました


日本獣医学会学術集会の繁殖分科会で、生殖器奇形牛の妊孕性改善の手術についての研究成果をオンラインで口頭発表しました。発表の概要は以下となります。


【背景】
牛のホワイトヘイファー病(WHD)はミュラー管の形成不全により起こる先天性の生殖器奇形である。WHD牛は、卵巣に異常がないものの片側の子宮角に欠損や部分的形成不全が認められ、妊孕性が低いと考えられている。今回、34頭のWHD牛の妊孕性を調査し、妊孕性改善のために経腟片側卵巣摘出術(OVX)を4例に実施してその効果を検討した。

【材料と方法】
直腸検査で診断したWHDのホルスタイン種34頭とランダムに抽出した対照牛34頭について、生存日数と分娩履歴を比較した。また、子宮角欠損型のWHD牛4頭に対して欠損子宮角側の経腟片側OVXを実施し、手術前後の繁殖成績を比較した。

【結果】
WHD牛と対照牛の生存日数に差は認められなかった。しかし、分娩回数の中央値は、対照牛と比較して、WHD牛で有意に少なかった。経腟片側OVXを実施したWHD牛4頭は、残された片側の卵巣のみで卵巣周期が確認され、人工交配を開始した。WHD牛の発情発見率は手術前に比べ手術後で改善したものの、有意差は認められなかった。手術後に全症例で妊娠し、手術後の妊娠までの日数は手術前の空胎日数に比べ有意に少なかった。

【考察】
WHD牛の生存日数は対照牛と差はなかったものの、分娩回数が有意に少なくなっており、分娩間隔が延長していることが示唆された。WHD牛では片側OVX後に妊娠までの日数が短縮され、これは片側OVXにより常に正常な子宮角側で排卵が起こるようになったためであると考えられる。以上から、経腟片側OVXはWHD牛における有力な妊孕性改善方法になると期待できる。


今後も、当院は酪農よび獣医学の発展に貢献できるような研究継続していきたいと考えています!!

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2022/9/10 実習生の受け入れを行いました


忙しかったのでホームページの更新が滞っていました。7月末と8月初旬に実習生の受け入れを行いました(4および5人目)。

実習を通して、都市酪農と産業動物獣医療の理解が深まったならば嬉しく思います!暑い時期の実習、お疲れ様でした。


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2022/7/4 ちば創業応援助成金


ちば創業応援助成金への申請が採択されました。

この助成金制度では、計画の1/2の補助額で、最大50万円の補助限度額です。これでプログラムフリーザーの購入に関する負担額が軽減されることになりました。ウクライナとロシアの紛争による資材費と半導体の価格上昇の影響を受け、プログラムフリーザーの本体価格も上がっていたので助かりました。

本年度は、受精卵の凍結設備を整え、県への人工授精所の申請内容を変更し、モニターでの採卵の実施を計画しています。採卵をするのが楽しみです。

2022/4/19 乳頭に付着した副乳頭の切除術


未経産牛にETを実施していたら、左後乳房の乳頭の形が少しいびつなのに気が付いた。よく観察すると、乳頭に副乳頭が付着して融合していた。これは放っておくと乳房炎になりやすく、治療も難しいのは経験的に分かっている。予防的に副乳頭を切除し、乳頭を整形手術することにした。


手術前。


切開すると、副乳頭には小さいながら乳腺に繋がる管が認められた。


どうやら、別々の乳腺ではなく、同一の乳腺に繋がっているようであった。副乳頭は少し余計に切除。


皮内縫合をして手術終了!!