Routine antibiotic dry cow therapy


Biggs A, Barrett D, Reyher K, Bradley A, Green M, Zadoks R

Vet. Rec. 2016 Feb;178(7):174

PMID: 26868247


Editorial で抗生物質による乾乳期治療についての展望が書かれていた。抗生物質の乱用を低減するために、乳頭内シーラントの使用を前提としつつ、群全体ではなく個別の牛に対して抗生物質による乾乳期治療を提案している。バルク乳体細胞数によっても考慮するべきと述べつつも、具体的には泌乳後期(乾乳前3か月以内)の乳房炎発症牛や20万以上の体細胞数の個体を挙げている。

日本においては乳頭内シーラントの使用の許可が下りず、発売されていない。乾乳期の新規感染を防ぐ効果が顕著にあるのだから、農林水産省に動物用医薬品としての許可を出してもらいものである。

3/11 プロトセカの乳房炎


慢性乳房炎の乳汁サンプルの薬剤感受性試験がしてあったので覗いてみた。
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ご覧の通り、全ての抗生物質に耐性との結果であった。このようなサンプルの時に疑うのが酵母様真菌かプロトセカである。

コロニーが小さく、不整形で、発育も悪そうなので、プロトセカに当たりをつけた。簡易グラム染色も面倒なので、スライドグラス上の生理食塩水にコロニーを溶かし、カバーグラスを被せて観察した。この方法でプロトセカなら判断できる。

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ビンゴ!大小不同の不整形の大型の菌体に加え、殻のような物も観察できた。プロトセカに間違いない。

プトロセカの乳房炎に抗生物質の注入は効果が無いと思われるので、そのようにアドバイスを行った。残念ながら治らないであろう。

Serratia属の乳房炎


セラチアSerratia属による乳房炎は比較的珍しい。

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写真左は羊血液寒天培地、右はクロモアガー酵素基質培地。クロモアガー酵素基質培地上で赤や青の光沢のあるコロニーを形成するのが特徴だ。

慢性の乳房炎で検出されることが経験上多い。が、教科書の記述はとても少ない。

乳房炎の虎の巻、Mastitis Control in Dairy Herds(Roger Blowey and Peter Edmondson, 2010) を調べてみた。しかし、たったの3点しか触れられていなかった。

1. 乾乳牛も搾乳牛でも発生する、稀な乳房炎。
2. Serratia属の中でも、Serratia marcescensが最も一般的。
3. 色素産生する細菌より、色素非産生の細菌の方がより病原性が高い。

仕方がないので、The Merck Veterinary Manualを調べてみた。こちらは、Web版はタダで読めるので、非常にお勧めです。Serratia属の乳房炎についての記述を以下に抜粋する。

Serratiamastitis may arise from contamination of milk hoses, teat dips, water supply, or other equipment used in the milking process. The organism is resistant to disinfectants. Cows with this form of mastitis that continue to display clinical signs should be culled.

4. ミルクホース、ディッピング剤、水道等の搾乳機器のコンタミが原因。
5. Serratia属は殺菌剤に耐性。
6. Serratia属の臨床型乳房炎は慢性例では淘汰すべき。

うーん、残念ながら情報量がとても少ない。色素非産生のSerratia属っていうのはどういう菌なのだろうか。酵素基質培地でも色素非産生だとすると、気づいていないだけかもしれない。