生後2週間の子牛の様子がおかしく、立たないと診療依頼があった。首をのけぞらせ、肢が曲がらないという話であった。後弓反張の症状であり、破傷風を思い浮かべた。
牛を見に行くと、示された場所と違う子牛が後弓反張になっていた。どういう事だ?頭の中はハテナだらけになった。
そして、もう一頭、示された場所に後弓反張の子牛がいた。一体、何が起きているんだ??頭の中は破傷風アウトブレークの想像になった。
急いで畜主に話を聞くと、上の写真も牛は本日生まれたばかりの子牛だそうだ。
眼球振盪しており、平衡感覚がなさそうだ。伏臥にしても、すぐに後弓反張に戻ってしまう。こちらは、Clostridiumu tetanusの潜伏期間を考えても破傷風ではなさそうだ。先天性の脳の奇形であろうと説明した。
下の写真の子牛は、破傷風が疑わしい。
後弓反張Opisthotonus=破傷風Tetanusをすぐに頭に浮かべてしまうが、それでは不十分なようだ。MedlinePlusには以下のように記述があった。
Opisthotonos may occur in infants with meningitis. It may also occur as a sign of reduced brain function or injury to the nervous system.
Other causes may include:
* Arnold-Chiari syndrome (a problem with the structure of the brain):アーノルド・キアリ奇形
* Brain tumor:脳腫瘍
* Gaucher disease:ゴーシェ病
* Growth hormone deficiency (occasionally):成長ホルモン不足
* Glutaric aciduria and organic acidemias (forms of chemical poisoning):グルタル酸尿症と有機酸血症
* Krabbe Disease:クラッベ病
* Seizures:脳卒中
* Severe electrolyte imbalance:重度の電解質平衡障害
* Severe head injury:重度の頭部損傷
* Stiff-person syndrome (a condition that makes a person rigid and have spasms):全身硬直症候群
* Subarachnoid hemorrhage (bleeding in the brain):くも膜下出血
* Tetanus:破傷風
特に、上写真のような生後すぐの後弓反張はたまにあるので、生後すぐの髄膜炎は牛にも有るのかもしれない。牛では、破傷風ばかりに目が行ってしまうが、他の原因も疑ってみる必要があろう。
なお、破傷風は、Clostridiumu tetanusの外毒素が末梢・中枢運動神経に吸着することで後弓反張の症状が発症するそうだ。うーむ、国家試験の勉強でやったような気がするような…。
はじめまして、いつも大変興味深くHPを見させてもらっている開業獣医師です。
私も去年12月に似たような症例があったので参考になればと思い報告させていただきます。
親牛、3産目、異常産ワクチン未接種、正常分娩にて生まれたホルスタイン雌子牛。畜主のりんこくにて頸がのけぞっているとのことで子牛を診ました。
当該牛はやはり写真のように首を後ろにのけぞらせ、まともに犬座姿勢を取ることができませんでした。哺乳欲はあったので初乳を飲ませました。眼球も写真三枚目のように両目とも上を向いていたため、畜主には脳の異常ではと伝えました。治療もとくにせず、ホルメスだったので経過観察をしていました。ハッチで過ごしていたのですが、周りを毛布等で囲むとイナバウワー状態になってしまい、畜主とも閉所恐怖症かなーなんて言って様子をみていました。現在一カ月以上たつのですが、通常通り、起立をでき、眼球も正常に向いています。原因究明には至っていませんが、何かの参考になればと思いコメントしてみました
>美ら富士さん
コメントありがとうございます。反応があると僕もうれしく、励みになります。
子牛の症例の共有、ありがとうございます。まさに同様の症状ですね。ちなみに、私の診た新生子牛の後弓反張は、翌日に神経症状はなくなり、今日はもう普通の子牛のように元気ピンピンになっていました。抗生剤とステロイドを使っただけです。
診療所内でも、このような子牛に稀~に遭遇するという話を聞きました。新生子牛の後弓反張や髄膜炎について少し文献を調べてみたので、それは後日ブログで更新しますね。