2018/7/11 の妊娠後期の代謝ストレスとその乳用子牛における免疫や代謝との関係を調査した論文を読んでみた


母牛の妊娠後期の代謝ストレスとその乳用子牛における免疫や代謝との関係を調査した論文(10.3168/jds.2017-14038)を読んでみた。

  • 【背景】乳牛の周産期の代謝ストレスには、脂肪動員、炎症、酸化ストレスがあり、これらは本牛の免疫機能や生産性に悪影響を及ぼすことが知られている。しかし、これらの代謝ストレスがその子牛の免疫状態や代謝性に及ぼす影響は知られていない。
  • 【目的】乳用種経産牛の妊娠後期の代謝ストレスとその子牛における免疫機能や代謝性に関係があるのかを調べること。
  • 【材料と方法】ホルスタイン種経産牛12頭を乾乳期に採血し、代謝ストレスの指標としてNEFA、ハプトグロブリン(Hp)、酸化状態(oxidant status index, OSi)を測定。それぞれの指標において、高かった群(n = 6)と低かった群(n = 6)で分け、子牛の体重、増体、免疫機能(LPS投与に対するTNF-aの濃度)、代謝ストレス指標を測定し比較。
  • 【結果】高NEFA群と高OSi群の子牛では出生時体重が低NEFA群と低OSi群より有意に低かったが、増体は変化がなかった。代謝ストレス指標では、高NEFA群でHpおよびOSiが低NEFA群より有意に高く、高OSi群でHpが低OSi群より有意に高かった。高OSi群と高Hp群の免疫機能は、生後4週に渡って低OSi群と低Hp群より有意に低かった。
  • 【結論】乳用種経産牛の妊娠後期の代謝ストレスとその子牛における免疫機能や代謝性には1月に渡り関係が認められた。子牛の免疫機能や代謝性が損なわれることで、病気の影響を受ける可能性がある。
  • 【感想】今回の論文のデータには病気の母牛や子牛が含まれていない。その点を考慮すると、母牛の代謝ストレスが子牛に及ぼす影響は実際の現場にはもっと色濃く出ているのだろうなぁ。病気の親の子牛はとても弱いっていう現場の感覚と一致しており興味深かった。
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  • 2018/7/8 乳牛におけるTHI、直腸温度、腟温度、乳房表面温度の関係を調査した短報を読んでみた


    乳牛におけるTHI、直腸温度、腟温度、乳房表面温度の関係を調査した短報(10.3168/jds.2017-13799)を読んでみた。

  • 【背景】暑熱ストレスの指標としてTHIと直腸温度がよく用いられているが、直腸温度の測定は手間がかかる。データロガーによる腟温度、または非接触型体温計による乳房表面温度の測定の方が容易。
  • 【目的】暑熱ストレス下における乳牛の、THI、直腸温度、腟温度、乳房表面温度の関係を知ること。
  • 【材料と方法】搾乳牛を10時間の暑熱ストレス下に7日(実験1, THI=74~82)および21日(実験2, THI=69~83)間暴露し、THI、直腸温度、腟温度、乳房表面温度の関係を調査。
  • 【結果】①午前より午後で体温は高い。②腟温度、直腸温度、乳房表面温度の順で体温が高かった。③THIと直腸温度または腟温度において、弱い~中程度の相関が認められた。④THIとの相関は腟温度の方が直腸温度より強く認められた。
  • 【考察】腟温度が高いのは、血流量が多いこと、または深部への体温計挿入によるもの。乳房表面温度は環境の要因を強く受けていそう。
  • 【感想】直腸温度以上に生殖器の温度は高いのかもしれない。”As indicated by the slope, a 1.0°C increase in vaginal temperature increased rectal temperature by 0.55 (experiment 1) and 0.50°C (experiment 2).”精子や胚は思っていた以上に熱の影響を受けている可能性が高そうだ。夏は腟温度の測定をしてみようかな。
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  • 2018/6/28-7/3 乳牛におけるAI後2日におけるhCGがprogesterone濃度および受胎率に及ぼす影響を調査した論文


    乳牛におけるAI後2日におけるhCGがprogesterone濃度および受胎率に及ぼす影響を調査した論文(10.3168/jds.2017-14058)を読んでみた。

  • 【背景】hCGは発情後5日で投与されることが多く、副黄体が形成され、P4値が上昇する。大規模なメタアナリシスによると妊娠率の上昇は3%ほどである。hCGの投与時期を検討した研究では、発情後2日で最も黄体形成が促され、P4値が上昇していた。
  • 【目的】AI後2日におけるhCGの一回投与がprogesterone濃度および受胎率に及ぼす影響を明らかにすること。
  • 【材料と方法】CIDRにより同期化し、ランダムにhCGを投与した(Control, n = 408; hCG, n = 391)。繁殖指標は受胎率(P / AI)、P4値など
  • 【結果】hCG投与によりP4値は発情後7日で22.2%、発情後14日で25.7%上昇した。しかし、受胎率(P / AI)はhCG投与で有意に低かった(Control, 55.1%; hCG, 46.3%)。
  • 【考察】P4上昇は主要な黄体の機能を強めたためだろう。受胎率を下げてしまった要因として、①理想的なP4値を超過した、②胎児と子宮環境の不一致等が考えられる。
  • 【感想】hCGの投与は発情後5日に打ち、副黄体形成による「P4値のわずかな上昇」が受胎率を上げるために有効か。
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  • 2018/6/8 臍帯炎と臍ヘルニアの併発


    出荷予定のある子牛の臍が出ており、ヘルニアネットを使用したが状態が変わらないと診療依頼があった。臍帯炎と診断し、手術を選択した。

    Fig. 1. 摘出した炎症部位の切開像

    手術をしてみると、臍帯炎に加え2指幅の臍ヘルニアも認めた。炎症は治りつつあったので、抗生物質でも臍帯炎は治ったであろう。しかし、組織の硬結とヘルニアは変わらず、出臍状態は変化がなかったであろう。僕は手術を選択して正解だったと思う。