2018/10/11 Theriogenologyに論文が掲載されました!


大学院の研究(乳牛のミュラー管融合不全が受胎性に及ぼす影響)がTheriogenologyという動物繁殖学の雑誌に掲載されました。以下のリンクから期間限定でダウンロード可能です。
https://authors.elsevier.com/c/1XtE7,28Lgz-by

論文の要点は、①ホルスタイン種のミュラー管融合不全は2.09%の発生率だった、②融合不全は様々なタイプがあるので、軽度と重度に分けて解析した、③重度の奇形のみ受胎性に大きな影響があった、④遺伝性疾患なので原因遺伝子の特定が必要である、という事です。

獣医繁殖学の教科書の記述が変わることを祈っています。多くの方に引用されますように!

2018/10/1 乳牛の抗ミュラー管ホルモン濃度と受胎性が関連しているかを検討した論文を読んでみた


乳牛の抗ミュラー管ホルモン濃度と受胎性が関連しているかを検討した論文(10.3168/jds.2017-13940)を読んでみた。

  • 【背景】抗ミュラー管ホルモン(AMH)は卵胞の顆粒膜細胞で産生され、卵巣の卵胞数のマーカーとされている。乳牛の血中AMH濃度と繁殖成績との関係はいまだ不明瞭。
  • 【目的】①血中AMH濃度と関連のある要因を調査すること、②受胎率を予測できるAMHの閾値を確立すること、③AMHの濃度分類と受胎性との関係を調査すること、④AMH濃度と関連した量的形質遺伝子座(QTL)を明らかにすること。
  • 【材料と方法】7牛群のホルスタイン 経産牛647頭のAMH濃度を分娩後7日で測定。このうち、589頭で遺伝子型を同定。DIM, 産次、BCS、繁殖成績が揃っていた460頭のデータを使って解析した。
  • 【結果】①産次だけがAMH濃度と関連があった(116.2, 204.9 204.5, and 157.9 pg/mL for first, second, third, and ≥fourth lactation, respectively)。②受胎率を目的としてROC解析をやったが、閾値の設定はできなかった。③低AMH濃度群(<83.0 pg/mL; n = 92)、中AMH濃度群(≥83.0 to ≤285.0 pg/mL; n = 276)、高AMH濃度群(>285.0 pg/mL; n = 92)と分けて、受胎率、胚死滅率と250DIMまでの妊娠率との関連を見たが、関連は認められなかった( P/ AI (34, 43, and 40%), pregnancy loss between 30 and 60 d after artificial insemination (20, 12, and 8%), or pregnancy risk up to 250 d postpartum)。④AMH産生に関連した候補遺伝子を発見した(AMH gene on Bos taurus autosome (BTA) 7)。
  • 【感想】人では、AMHは原始卵胞の発育を抑制し、発育が未熟な卵胞におけるFSHの反応性を弱める役割があるらしい。

    今回の調査では個体ごとのばらつきが大きく、持って生まれた卵胞の数によるのかなぁ。でも、初産で一番低いのも納得がいかない。

    何にせよ、AMHで受胎性の評価は難しそうって結論は変わらないのだろうなぁ。ネガティブデータもしっかり出すことが大事なのだろう。

  • Bibliography

    2018/9/25 乳牛の子宮頚管と腟の粘膜におけるインターフェロンτ誘導遺伝子によって妊娠診断ができるかを検討した論文を読んでみた


    乳牛の子宮頚管と腟の粘膜におけるインターフェロンτ誘導遺伝子によって妊娠診断ができるかを検討した論文(10.3168/jds.2017-14251)を読んでみた。

  • 【背景】インターフェロンτは胚により産生され、着床に必須である。妊娠17-19日が最大値に達する。インターフェロンτに誘導される遺伝子としてISG(ISG15, MX1, MX2)が知られており、血中白血球における発現をみることで早期の妊娠診断が可能になると期待されている。しかし、白血球でのISGのmRNA発現には差異が大きく、信頼性に欠けている。
  • 【目的】妊娠または非妊娠搾乳乳牛の子宮頚管と腟の粘膜におけるインターフェロンτ誘導遺伝子(ISG15, MX1, MX2)発現をみること
  • 【材料と方法】人工授精17または18日後のホルスタイン種搾乳牛の外子宮口(子宮頚管)と腟深部から粘膜サンプルを採取し、定量的PCRにてISG15, MX1, MX2のmRNA発現を解析(βアクチンを参照値とした)。同時に血液も採取し、白血球におけるmRNA発現量も解析した。AI後30-60日で妊娠鑑定し、受胎群と不受胎群で分けて発現量を比較した。
  • 【結果】不受胎群と比較した受胎群のISG15のmRNA発現量は、子宮頚管で87倍、腟で17倍だったのに対し、白血球では5倍だった。同様に、不受胎群と比較した受胎群のMX1のmRNA発現量は子宮頚管で17倍、腟で8倍、そしてMX2のmRNA発現量は子宮頚管で20倍、腟で8倍だった。
  • 【考察】インターフェロンτの影響は思っているより広く作用している。ただこの作用が、インターフェロンτが子宮から直接的に子宮頚管や腟へ流出しているのか、血液循環を介しているのかは不明。
  • 【感想】発情17または18日後における腟内サンプルで、白血球よりハッキリとした妊娠診断が可能となるってことだな。畜主でも採材可能なのが良い点なんだろうな。でも、インターフェロンτに反応する遺伝子を見ているので、感度と特異度はどうなのだろうか?ってのが気になるところ。インターフェロンτに全身が反応していても、着床に至らないものもいるだろうからなぁ。

    妊娠のマイナス診断としては有用そうだな。やるとしたら、発情17または18日後にマイナス診断して、即PG投与っていう姿かな?

  • Bibliography

    2018/9/23 乳牛におけるOvsynchプログラムにおける2回目のPGF2aを追加する効果をメタアナリシスで解析した論文を読んでみた


    乳牛におけるOvsynchプログラムにおける2回目のPGF2aを追加する効果をメタアナリシスで解析した論文(10.3168/jds.2017-14191)を読んでみた。

  • 【背景】OvsynchプログラムでPGF2aを1回のみ使用すると、12-20%の牛で黄体が十分に退行していないと報告されている。そこでPGF2aを2回投与する試験が行われており、十分な黄体退行は明らかになっているが、受胎率(P/AI)の有意な違いは示されていない。
  • 【目的】乳牛におけるOvsynchプログラムにおける2回目のPGF2aを追加する効果をメタアナリシスで解析すること
  • 【材料と方法】PGF2aを2回投与したランダム試験についての6の論文から7つのデータを得て、メタアナリシスにより黄体退行と受胎率を再解析した。なお、選択したOvsynchプログラムは、GnRH on day 0, PGF2a on day 7, GnRH on day 9, TAI on day 10(GnRHから12-20時間後) のもののみ。PGF2aを2回投与する場合は、day8に追加。
  • 【結果】GnRH1回群よりGnRH2回群の方が、11.6%の差で有意に黄体を退行させていた(83.5% vs 95.1%, P = 0.001)。GnRH1回群よりGnRH2回群の方が、4.6%の差で有意に受胎率が高かった(34.0% vs 38.6%, P = 0.001)。
  • 【考察】初回のGnRHで排卵して黄体形成するものは60%と報告されている。この新しい黄体はday 7のPGF2aでは黄体退行が不十分になると場合がある。2回目のPGF2a投与はこの新しい黄体を十分に退行させた結果生じていた可能性がある。また、これまでの研究では多少な差を検出するにはサンプル数が少なかった。そのようなときには複数の研究結果を統合するメタアナリシスは有効。
  • 【結論】乳牛におけるOvsynchプログラムにおいて、2回目のPGF2aをday 8に追加すると、黄体退行がより促され、4.6%の差で受胎率を向上させる効果がある。
  • 【感想】Ovsynchプログラムはあまり受胎率が良くなかったために行わなくなってしまった。一番多く行われているらしいが、大規模牛群で取り入られやすいためかなぁ。
  • Bibliography

  • 2018/9/21 乳牛における5-day CIDR-Cosynchプログラムにおける初回のGnRHの必要性を調査した論文を読んでみた


    乳牛における5-day CIDR-Cosynchプログラムにおける初回のGnRHの必要性を調査した論文(10.3168/jds.2017-13491)を読んでみた。

  • 【背景】定時授精における初回の卵胞の排卵の有無は受胎率に影響する。しかし、5-day CIDR-Cosynchプログラムにおける初回のGnRHで、35%の経産牛しか排卵しなかったという報告が有り、初回のGnRH投与の必要性は疑わしい。
  • 【目的】5-day CIDR-Cosynchプログラムにおける初回のGnRHの有無による受胎率への影響を調査すること
  • 【材料と方法】5000頭を飼養する一酪農場、分娩後50日のVWPを置いたのち、Presynch-Cosynchを実施してAI(受胎率26%)した。妊娠鑑定後、不受胎だったもののうちの429頭を調査。5-day CIDR-Cosynchプログラムでは、GnRH + CIDR on day 0, CIDR removal and PGF2a on day5で、heat detection and AI on day 6 and 7。残りheatが分からなかった牛はGnRH on day 7, AI on day 8。Day 0におけるGnRHの有無をランダムに打ち、受胎率を調査した。
  • 【結果】GnRH無し群(n = 203, P/AI = 27%)の方がGnRH有り群(n = 203, P/AI = 21%)の方が有意差は無いものの受胎率は高かった(P = 0.54)。P4値の高いものと低いもの中でも、GnRH無し群とGnRH有り群の受胎率に差はなかった。
  • 【考察】処置開始時に、GnRHに反応する主席卵胞のない牛や、P4濃度が3 ng/ML以上の牛(GnRHへの反応性が乏しい)が多く含まれている可能性がある。
  • 【結論】乳牛における5-day CIDR-Cosynchプログラムにおける初回のGnRHに受胎率を向上させる効果はなかった。初回のGnRH省くことで、経費の削減になる。
  • 【感想】アメリカでは5-day CIDR-Cosynchプログラムが主流なのかなぁ?受胎性が変わらないのなら、1週間でAIできるのは確かに魅力的。

    それにしても、独創的な発想や特殊な機材がなくても、しっかりとした疑問を設定し適切な手法を使えばJDSに掲載してもらえるんだな。素晴らしい。

  • Bibliography