先日、ヤギの去勢を依頼された。育つにつれて攻撃性が増し、さらに雄ヤギの臭いが強くなってきたのが理由だ。この雄ヤギの臭いの中に、雌ヤギに作用するフェロモンが含まれていることをご存知だろうか?今日はそのフェロモンから生殖ホルモンの分泌に関する話を簡単に書こうと思う。
僕が獣医学科の学生だった頃、教科書には「脳内の視床下部にあるGnRHニューロンが最上位に位置し、パルス状に分泌されたGnRHがその下流にある下垂体に作用し、下垂体からLHやFSHがパルス状に分泌される。そのLHやFSHが性線に作用し、エストロゲンやテストステロン分泌を調整する。」と説明されていた。これが生殖ホルモン分泌の視床下部ー下垂体ー性線軸と言われるものだ。当時は、視床下部にあるGnRHニューロンが生殖ホルモン分泌を左右する親分と考えられていた。
しかし、研究の進展に伴い、生殖ホルモン分泌を左右する大親分の存在することが明らかになってきている。大親分の学術的な正体が「KNDyニューロン」だ。生理活性物質であるキスペプチンの頭文字であるK、ニューロキニンBのN、ダイノルフィンAのDyを同一の神経が有していることからKNDy(キャンディ)ニューロンと呼ばれている。そして、このKNDyニューロンの拍動的活性化こそがGnRHニューロンが分泌するGnRHのパルス状分泌の正体であることが明らかにされている。
KNDyニューロンの拍動的活性化の判断は他の様々な神経の投射によって制御されている。ヤギにおいては、雄の臭いに含まれるフォロモンもKNDyニューロンの拍動的活性化を決定づける一つだ。フェロモンとは「同種の他個体が受容したときに特定の行動や生理的変化を誘起する分泌物質」で、嗅覚系を介した同種間のコミュニケーションに重要な役割を果たしている。雄ヤギの臭いに含まれる4-ethyloctanalは雌ヤギの鋤鼻という器官で受容される。さらに鋤鼻神経を介してKNDyニューロンの拍動的活性化に関与することが明らかになっている。季節性繁殖動物であるヤギやヒツジにおいて,非繁殖期の雌の群れに雄を導入すると排卵や発情が誘起される「雄効果」という現象が古くから知られていた。この雄効果の正体が4-ethyloctanalというフェロモンだったのだ。
このKNDyニューロンの拍動的活性化は哺乳類に共通で、人や牛にももちろん存在する。KNDyニューロンの拍動的活性化については現在も盛んに研究されており、関与する要因や制御機構が次々と発見されている。そして、泌乳刺激、高ストレス状態、低栄養なども神経回路を通じてKNDyニューロンの拍動的活性化を制御していることが分かりつつある。
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