2018/12/16 ボンゴの精子に対する尿の影響を調べた短報を読んでみた


牛の精子では尿にどのくらい毒性があるのかと思っているのだが、シカの仲間であるボンゴの精子への影響を調べた短報(10.1016/j.anireprosci.2007.06.016)を発見。コレを読んでみた。


  • 【背景】
    希少な動物であるボンゴの精子をマッサージと電気射精で採取していたとき、尿で汚染されてしまった(1 : 3.7)。
  • 【目的】
    汚染された精子のレスキューを試みた。
  • 【材料と方法】
    汚染1.5時間後から、遠心や等張の緩衝液で洗って、精子の運動性や膜の損傷を評価。また、pHやモル浸透圧濃度を適宜測定。
  • 【結果】
    汚染された精子の運動性は0%だったが、洗浄後は最大50%まで復活した(膜の正常率は最大71%)。凍結後、再融解しても運動性は35%だった(膜の正常率は70%)。
    At 1.5 h post-collection, progressive motility was 0% but some spermatozoa had intermittently twitching tails. Subsequent dilution with media and processing improved the progressive motility (up to 50%) and intact membranes (up to 71%) of spermatozoa. After thawing, the respective values were 35 and 70%. The osmolarity and pH of the contaminated supernatant was 151mOsm and 7.45, respectively. Initial progressive motility in a non-contaminated portion of semen collected during the same procedure was 80%, and, after thawing, 60 and 90%, of the spermato- zoa showed progressive motility and intact membranes, respectively.
  • 【結論】
    ボンゴ精液の尿汚染は、等浸透圧の溶液で薄めた後から、運動性を回復し、凍結保存可能だった。

  • 牛もシカの仲間だからある程度は同様のことが言えるだろう。それにして、精子の活性は環境要因によって大きく異なるようだ。尿の成分による直接的な影響よりも、浸透圧が精子の活性を左右するみたい。

    参考文献にようやく牛の精子と浸透圧の関係について調べた文献(10.1095/biolreprod67.6.1811)を発見!

    Bibliography

    2018/12/15 健康な男性における射精後の尿中精子の生存性を調べた論文を読んでみた


    ヒトの尿では精子にどのくらい毒性があるのかと思い、論文を調べていたら法医学の学術誌に行き着いた。健康な男性における射精後の尿中精子の生存性を調べた論文(10.1016/j.forsciint.2009.10.002)を読んでみた。


  • 【背景】
    尿中に精子が混入することがあるのは人でも動物でも認められている(射精後の尿や逆行性射精)。しかし、射精後の尿中で精子がどのくらいの長さ生存しているかは知られていない。
  • 【目的】
    射精後の排尿から生存精子がどのくらいまで分離できるかを調べること。
  • 【材料と方法】
    健康な若い男性10名の射精前の尿、射精後の尿、精子を採取した。射精後の排尿までの時間は30分から11時間後までの幅があった。尿中の精子は生存し運動性があるかを調べた。
  • 【結果】
    全員、射精前尿中に精子は認められなかったが、射精後尿中に精子が認められた。最長で4.5時間後の排尿まで生存精子が認められた(表1)。
    The results showed that none of the 10 participants had sperm in their urine samples prior to ejaculation. The average sperm concentration was 50.1 million/ml. After a time span of 30 min 59.5% of the first fractions of post-ejaculatory urine samples were sperm positive, after 2 and 4 h still 70%, and after 5 h sperm were no longer detected. The last motile spermatozoa could be found after 4.5 h.
  • 【考察】
    尿道に残された精子は多くの男性で初回排尿で洗い流されるようだが、射精後5時間後以降も生存精子が見られるかはさらなる調査が必要。

  • 緒言に実際の法医学上問題となった事件が書かれており、非常に生々しい研究の動機で衝撃的だった。

    それはともかく、射精後の尿中で、さらに採取から2時間以内の検査なのに精子に活力があったのは衝撃的。ずっと尿に精子がいたのではなく、尿道に残された精子が尿と一緒に排出されているのであろう。

    尿の精子への影響は致死的だと報告されているらしい(10.1016/S0015-0282(16)57990-4)ので、そちらの論文も読む必要があるな。

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    2018/12/9 精子形成と性的活動を侵襲無く知る方法ついての論文を読んでみた


    最近、尿が精子の活動に及ぼす影響を知りたくて論文を探している。PubMedで検索していると、フリーの以下の論文を見つけた。精子形成と性的活動を侵襲無く知る方法ついての論文(10.1038/aja.2012.2)をまずは読んでみることとなった。


  • 【背景】
    精子形成と性的活動を知るには、アンケートや射精精子の検査が一般的。けど、アンケートは客観性に欠けるし、射精精子は嫌がる人も多い。尿として排出された精子やPSA (prostate-specific antigen)でその代替ができないか?
  • 【目的】
    尿として排出された精子やPSAから精子形成と性的活動を知ること
  • 【材料と方法】
    Of 11 healthy volunteers who provided urine samples before and at intervals for 5 days after ejaculation, sperm was present in 2/11 men before, and in all 11/11 samples immediately after ejaculation, but by the second and subsequent void, spermatozoa were present in ,10%.
  • 【結果】
    PSA was detectable at high levels in all urine samples, peaking at the first post-ejaculatory sample but returning to baseline levels by the second post-ejaculatory void.
  • 【結論】
    初回の排尿に限られるが、尿として排出された精子やPSAは精子形成と性的活動を知る客観的なマーカーになる。

  • PSAっていうのは、精子に特異的で法医学の検査でも用いられているようだ。なるほどーと思うけど、僕の知りたい情報はほぼ皆無。次を当たろう。

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