2021/7/21 子牛の感染性関節炎に行った関節切開術


今年の関東しゃくなげ会の講演で、鳥取大学の先生が「牛の感染性関節炎には関節切開術!」と推していたので、早速やってみました。


子牛の右前肢は関節炎のため負重できなくなっていた。すでに手根関節は開口し、膿を排出。穴は骨に達していた。開口部より関節洗浄を行ったが、状態の変化はなかった。


関節切開術を実施した。手根関節を横に切開し、不正な組織をむしり取るように徹底的に除去した。関節腔も開放状態となった。皮下組織は縫えなくなったので、皮膚だけ縫合し、ドレーンを設置した。プラスチック包帯で上下の関節を固定した(0日目)。

ドレーンは2日で詰まってしまい、除去した。キャスティングテープを11日目で除去すると、患部は癒合しつつあった。再度キャスティングテープで上下の関節を固定した。

手術後22日目にプラスチック包帯を再び除去すると、患部の癒合はさらに進んでいた。伸縮性包帯のみで創面を保護した。

手術後27日目には創面は癒合し、傷も目立たなくなってきた。しっかりと負重し、起伏に問題はないので治療を終えた。手根関節も軽度に曲げることができた。


今までなら、開放性の感染性関節炎は関節洗浄を行っても奏功しないので、予後不良だと思っていた。関節切開術は目からうろこの治療法だと思った。

2021/10/2追記

1. 当初、プラスチック包帯と書いてありましたがキャスティングテープの誤記ですので訂正しました。

2. この子牛は無事に市場で売れました。平均価格よりは約10万円低い価格でした。

2018/12/2 胎児の中手骨・中足骨の太さがホルスタイン種乳用牛の難産を予測する指標になるかを検討した論文を読んでみた


胎児の中手骨・中足骨の太さがホルスタイン種乳用牛の難産を予測する指標になるかを検討した論文(10.3168/jds.2018-14658)を読んでみた。

  • 【背景】
    未経産牛の約5割、経産牛の約3割が難産だったという報告がある。また、難産の一般的な原因は在胎期間と、胎児と骨盤腔の不均衡である。そして、胎児と骨盤腔の不均衡の2大要因は子牛の体重と母牛の骨盤腔の大きさである。
  • 【目的】
    ホルスタイン種乳用牛の妊娠末期における胎児の中手骨・中足骨の太さが出生時体重と難産を予測できるかを検討する
  • 【材料と方法】
    妊娠期間265-282日の母牛128頭に経直腸超音波検査を実施し、胎児の中手骨・中足骨の太さを測定(図1, 2)。

    分娩のスコア化は以下に従った。スコア1(自然分娩)は無介助、または、一人でのわずかな介助分娩。スコア2(lightな難産)は足胞の出現から2時間経過、または、一人での機械を使用しない中程度の牽引。スコア3(mildな難産)は2人での機械を使用しないかなりの牽引。スコア4(severeな難産)は3人でのかなりの牽引、または機械を使用した牽引。スコア5は帝王切開、切胎。

    子牛の体重は出生直後に測定した。

    母牛と子牛の足の太さを考慮するために、MCTI(母牛体重kg / 中手骨・中足骨の厚さcm)という新概念を用いて検討した。

  • 【結果】
    ①93.3% (104/128)の子牛を測定できた。104頭のうち、単子は93.3%、双子は6.7%であった。単子の分娩の44.3%が難産(スコア2以上)だった。単子の分娩の92%が頭位であった。

    ②難産発生を目的変数としたロジスティック回帰分析では、MCTIを説明変数としたモデルが最適であった。そのモデルにおけるオッズ比は2.07 (CI=0.002~11.104)であった(表1)。

    ③中手骨・中足骨の太さと出生時体重には正の相関が認められた(r = 0.43, P < 0.001, 図3)。

  • 【結論】
    MCTIという概念は、調査項目の中では難産発生の予測に最も適していたものの、すべての難産を予測するのは困難。難産率は「難産の定義」と分娩の管理方法により大きく異なるため、他の牛群で同様の難産スコアをした上で、MCTIの有用性を再検討する必要がある。
  • 【感想】
    分娩前に足を触れない場合はたまにあるので、その時は評価できない。けど、ちゃんとエコーで測定できれば、子牛の過大の推定はできるって話か。難しいのは、「難産」を決めるのは子牛の腕の太さや体重だけではないってこと。確かに、「サイズが原因の難産」は頭部および両前肢の大きさや胴回りと骨盤腔の広さの問題なんだろうから。
  • Bibliography