7/11 吸血シラミの怪


今日、起立難渋の稟告で診療した牛がいた。足が関節炎で腫れてしまっていたので、注射をしようと顔を保定してから、ソレに気がついた。ん…?何だコレ?

白い部分に黒いものが点在している。何だコレ?

ん?
動いている!?何だコレ?
指で潰すと、虫の感覚であった。どっひぇー、シラミの大量感染だ!

診療所に戻り、虫の図鑑を探すと、ウシジラミが載っていた。


ウシに寄生するシラミは、毛やフケを食べるウシハジラミと、血液を吸うウシジラミがいるみたいだ。大きいこと、牛にフケが少ないこと、そして形態から、このシラミはウシジラミのように見えた。
そこで、手元に寄生虫学の本が無かったので、2009年の文献が見つて、読んでみた。そこには、衝撃の事実が書かれていた。
北海道におけるケブカウシジラミSolenopotes capillatus(Anoplura:Linognathidae)の寄生状況
Infestations of Solenopotes capillatus (Anoplura: Linognathidae) in Hokkaido, Japan
古い文献では日本はウシジラミが多いとされていたが、北海道を中心に調べてみたらウシジラミはいなく、沖縄にしかいないとされていたケブカウシジラミが多く見つかったそうだ。シラミは一般的に雨季や冬に多いが、このケブカウシジラミは季節の影響を受けずに、通年いるようだ。このシラミは、皮膚の接触で簡単に移っていってしまうので、見つかったということは牛群全体に拡がっていると考えたほうがよいらしい。さらに、吸血昆虫なため、血液媒介の感染症を伝播する危険性も高い。
シラミの世界にも、温暖化の影響があったのだろうか?十分考えられることだ。今回見つけたシラミも、ただのウシジラミではなくケブカウシジラミなのかもしれない。識別法は以下の文献に書いてあるそうだが、読む気はしないな。
J Econ Entomol. 2007 Apr;100(2):619-21.
Life cycle details of Solenopotes capillatus (Anoplura: Linognathidae).
Grubbs MA, Lloyd JE, Kumar R.


やれることは駆虫だろう。牛用の駆虫薬はいくつか出ている。どれにしようか?
ネグホン、バイチコール、アイボメック、エプリネックスetc…。
搾乳牛ということを考えると、バイチコールとエプリネックスを勧めてみよう。ちょっと値が張るのだが…。

7/10 眼の事故


牛が何かの拍子に、突起物で眼を傷つけてしまうことがたまにある。大抵は、、傷自体は修復されて眼が白く覆われていることから、蓄主が気づくことが多い。
先日診療した牛は、異物が刺さってすぐだったらしい。食欲は廃絶し、元気なくうなだれていた。右眼には透明色のゼリー状物が付着していた。最初は何かのゴミかと思い取ろうとしたが、ものすごく痛がる。よく見ると、眼の真ん中からそのゼリー状物は飛び出ていた。

このままではまばたきの度に痛がってしまうので、切除することにした。鎮静化し、眼の表面も浸潤麻酔した。ゼリー状物をヒモでくくった上で、ハサミで切除。取ってやったら、しばらくして餌を食べ始めた。
あのゼリー状物は何だったのだろう…?おそらく、眼房水でも、水晶体でもなく硝子体だったのだと思う。おそらく、相当鋭利なものが、大分奥まで突き刺さったのだろう。かわいそうだ。

釘や壊れた金具等は放置してはいけないと再認識した。

6/25 副乳頭に想いを馳せる


乳牛の乳房は通常4つだ。もちろん、乳頭も通常4本だ。それに従い、搾乳システムも、4分房を同時に搾れるようにできている。
しかし、牛の中には、4本以上の乳頭を持って生まれる牛もいる。それに付随して、乳房も4つ以上なのだろう。
メインでない乳頭は、副乳頭と呼び、見つけ次第切ってしまう。残しておくと、その分房の搾乳が困難なため、そこから漏乳したり、果ては乳房炎になってしまうこともある。一度切ってしまえば、つながっていた乳房もそれ以上発達せずに、萎縮する。
先日、農家で発見した子牛には、6.5本の乳頭がついていた。それも見事な副乳頭だった。

この牛なら、ギネス世界記録に載っている、5つ子の子牛も無事に育てられるのかもしれない。
Most Calves – Single Birth


よく、子供の数の2倍の数だけ乳頭があるなんて言うが、それは本当なのだろうか….?

6/17 コントラクター始動


南房総市和田町を中心としたNFC和田(ナチュラル フィード コミュニティー)というコントラクター組織についての記事が農業共済新聞に載りました。(僕が元ネタを書いたのに、名前が出ていないぞ。。。)
この組織は、農家が保有していた農地をまとめて管理し、サイレージを作る事で、農家の負担軽減を目指して作られた。さらには、山間部を中心に散在している遊休農地も活用して自給飼料の生産を拡大する方針だ。
時代の流れに合った、素晴らしい取り組みだと思います。

6/2 よくある話・よくある診療


一昨日の夜から急に仕事が忙しくなった。


夜、難産の連絡が来た。予定日までまだ一月ある牛が、朝から産気付いた様子だが、出て来ない。開業の獣医師を呼んだが、手に負えないという旨。他の獣医師に本格的に頼られたのは初めてかもしれない。
帝王切開を覚悟しながら大至急向かうと、すでに開業さんは諦めの表情だ。
体位を確認すると、尾位上胎向右側股関節屈折の胎子と、さらに前肢を触る。これは整復できるのではとチャレンジをした。右側の飛節になんとか触れられたので、ロープを絡ませてなんとか整復できた。娩出させると、小さなF1メスだが生きていた。
さて、きっともう一頭いる。
再び手を入れると、やはり両前肢を触った。しかし、頭がない。頭位上胎向側頭位だった。頭を探すも、肩部に阻まれて掴みどころが全くない。ここからが難産の本番だと覚悟した。
側頭位のまま肢を牽引し、首の根元を手前まで寄せると、なんとか首に産科チェーンをかけることができた。そこからが長かったが、人工粘液を流し入れて、胎子を押し込みながら、徐々に顔を引き寄せる。アドレナリンが出ているのが自分で分かった。
ようやく口元まで触れるようになり、整復できた。娩出させると、こちらはF1メスで、死産だった。
計1時間の格闘だった。
双子の早産、よくある話かもしれない。


翌日は朝から4件が急ぎの診療。
4件目が一番重篤で、即手術になった。第四位右方変位。
よくある話かもしれない。

手術時、畜主が牛の日差しよけにパラソルを用意してくれた。これは、、、、よくある話ではない[emoji:v-405]