とある衛生乳質の悪い農家が、とうとう体細胞が高いと酪農組合からお叱りを受けてしまった。我々と対策をすべく、まずは搾乳立会をすることにした。
かなり早朝から搾乳をする農家で、眠い目をこすりながら向かった。
搾乳はブラックボックスである!そこで何が起こっているか、とうとう明らかになった。
こちらが立会結果である。なんと、乳頭刺激から、ミルカーを装着し搾乳開始まで約7分もかかっていた…。
通常、搾乳は乳頭刺激をすると、オキシトシンのホルモン分泌があり、泌乳がある。よって、刺激からミルカー装着までは約1分が良いとされている。
この農家では、泌乳生理も何もない搾乳をしていたのであった。改善のしがいがありそうだ!!
搾乳はまさにブラックボックス!
カテゴリー: 獣医な話
1/13 牛の胎子と胎盤の解剖
とある農家のとある牛が、発情だと思っていたら、胎子がでてきてしまったらしい。
せっかくなので、お勉強させていただくことになった。
牛の胎盤は多胎盤。尿膜の表面に、後に丘阜と呼ばれる胎盤小葉がたくさんついている。
尿膜を切って、胎児をもっと見てみた。
頭尾長は5.3cmであった。約二ヶ月の胎児なので、順当な大きさだ。よく、胎子の大きさは、n×(n+2)と表記されるが、これは姿勢を伸ばした体長である。体長だと、2×4=8cmくらいになるようだ。
この胎子はまだ羊膜に包まれている。お産の時に二回破水するのは、それぞれ尿膜と羊膜が破れるからである。
胎児は臍動脈と臍静脈によって、胎盤とつながり、栄養素や酸素のやりとりを行っている。胎子は老廃物と二酸化炭素を含んだ静脈血を臍動脈で送り出し、胎盤にて栄養素と酸素に積み替え、動脈血が臍静脈によって胎児へと運び込まれる。
臍動脈は二本出ているらしい。確かに、臍帯炎で診る時に、動脈らしい太い血管断面を二つ見ることがあるが、どうやらこれが臍動脈の二本の断面ということだ。
勉強になります!
1/12 難治性乳房炎/ノカルジア現る!
血液寒天培地に白い粉を吹くコロニー、クロモアガー酵素基質培地に水色のカサカサしたコロニーを作る牛乳サンプルがあった。
グラム染色しようと、コロニーを取ろうとしても、取れない。ガリガリと削るように染色をした。
グラム陽性の縮毛様の菌体が染まった。
これらの特徴を持つ菌、それはノカルジアである。放線菌の仲間で、環境性の乳房炎原因菌だ。
人では肺炎が一般的であり、検査時は菌体を吸い込まないようにしなければならない。
抗生物質にはあまり感受性を示さず、治療にも反応を示さないことが多い。
という訳で、この牛もニ分房からノカルジアが検出されたため、淘汰を勧めた。これも立派な難治性乳房炎だ。
1/10 乳頭手術のその後
先日に乳頭手術した牛の予後が、今のところ順調である。
創面はしっかりとくっつき、傷が開く様子もない。
復習も兼ねて、牛の外科マニュアル第2版を読んでいると、すごいことが書いてあった。「乳頭洞に達する乳頭裂傷」の項には、「粘膜縁を並置または内反させ、粘膜下織と菌を針付きの3号PDS(単線維ポリジオキサノン)で結節縫合する。粘膜を縫合してはならない」と書かれている。
野外で行う現場レベルの手術では、そんなことは言ってられなかった。思い切り粘膜を縫合したなぁ。
乳頭洞に達する乳頭裂傷への乳頭手術のおさらい
1.牛に鎮静をかけて、横臥位にする。四肢と頭を固定する。
2.乳頭を洗浄し、患部を浸潤麻酔する。
3.患部の裂傷をしっかりと見極めた上で、メスやカミソリでデブリードメントする。
4.細い針付き吸収糸で、乳頭洞の粘膜面を結節縫合する。
5.乳房炎軟膏を乳頭口から注入しする。縫合部位から漏れがないかを確認する。
6.乳頭の上皮を同じく吸収糸で結節縫合する。
7.乳頭が汚れないように、ベトラップで包帯をする。
管理は、泌乳期の牛ならば、一日に一回は導乳管で乳汁を落として乳房炎軟膏を入れる。その際、傷口にワセリンを塗り、再度包帯をする。
乾乳期に近い牛ならば、そのまま触れないのが吉か?
農道によくノスリがいる。ケアシノスリ、出ないかなぁ。
1/7 稟告の重要さ
昨日、日が沈んでから、畜主より電話があった。
畜主「さっきからお産みたいなんだけど、進んでこないんだよ。手を入れてみたら、産道は開いて来ているんだけど、胎子が遠くって。まだ早いのかな?」
僕「んー、産道が開いてきてるなら、まだ早いのかもしれないですね。後は、行ってみないとなんとも分からないですね。行きましょうか?」
畜主「んー、もうちょっと様子見てみる。」
僕「分かりました。何かあったら連絡くださいね。」
その夜、何も連絡はなく、てっきり何とかなったのだと思っていた。
しかし、明け方に電話で起こされた。新人さとちゃんからだ。昨日の畜主からお産の依頼で、行っていたらしい。
さとちゃん「子宮捻転なんですけど、どうしましょう?」
僕「…すぐ行くわ。ちょっと、整復しててみな!」
現地に着くと、さとちゃんのファインプレーで、ちょうど整復されたところだった。そのまま牽引し、母子共に無事であった。しゃんしゃん!
非常に反省する点の多いやり取りであった。「胎子が遠い」ってところで、なぜ気付いてあげられなかったかな?きっとその時点から子宮捻転だったのであろう。
午後から診療依頼があり、向かうとその牛は飼槽に這い出ていた。
産後一月のこの牛は、昨夜から熱発して餌を食べなくなり、朝からフラフラしていたという。牛乳は出ないと思って、昨夜から搾乳していなかったらしい。
眼球陥凹、眼球充血、皮温は低下、心拍数は亢進、体温は39.5度、起立不能になっていた。
乳房を調べると、腫脹、硬結があった。牛乳を調べると、白ではなく、ワインレッドの(赤い)牛乳になっていた。
これはひどい。おそらく、急性の大腸菌性乳房炎により、ショック状態であり、治る確率は低いと説明した。この牛は治療せずに淘汰することになった。
原因菌を念のため調べると、大腸菌ではなく、なんと黄色ブドウ球菌であった!
黄色ブドウ球菌は伝染性乳房炎として有名だが、急性発症で壊疽性乳房炎になるものもあるらしい。
この菌でのショック症状には、初めて遭遇した。それはそうと、僕の予測した大腸菌ではなかった。治療していたら治っていたのかもしれないと悔やまれる。
獣医として、僕はまだまだ未熟のようだ。がんばろう。
(1/8 本文の一部をサラッと訂正)