暑熱ストレスがin vitro受精に及ぼす影響についての論文(10.1002/mrd.22441)を読んでみた。
【背景】暑熱ストレスは受精に悪影響を及ぼしている。
【目的】卵子と精子が暑熱ストレス下においてどのように受精が阻害されるかを、酸化ストレスと多精受精の点から調べること。
【材料と方法】①卵子(屠場で採取、牛の品種は様々)を38.5℃, 40.0℃, 41.0℃で6時間、精子とin vitro受精、②精子を38.5℃, 41.0℃で4時間暴露した後に、卵子と38.5℃で6時間、精子とin vitro受精。受精と受精卵の発育、酸化ストレス、HSPA1A(暑熱ストレス指標)とUCHL1(多精受精防止の指標)の遺伝子発現を調べた。
【結果】①受精時の温度が上がると、day2 の卵割率(38.5℃で84.5% vs 41.0℃で39.9%)、day8の胚盤胞発生率(38.5℃で49.7% vs 41.0℃で3.2%)が有意に低下(Table 2)。②受精時の温度が上がると、多精受精(38.5℃で19.8% vs 41.0℃で39.4%)が上昇していた(Table 1, P=0.058)。③精子を高温に暴露すると、day2の卵割率、day8の胚盤胞発生率は減少していたが有意差はなかった(Table 3)。④40.0℃の中程度の暑熱ストレスでも同様の傾向で、day2 の卵割率(38.5℃で78.3% vs 40.0℃で69.8%)、day8の胚盤胞発生率(38.5℃で33.5% vs 40.0℃で19.2%)が有意に低下(Table 6)。⑤暑熱ストレスに暴露すると、酸化ストレスは上昇し、HSPA1A(暑熱ストレス指標)の発現は上昇、UCHL1(多精受精防止の指標)の発現は減少していた(Figure 4, 5)。
【結論】暑熱ストレスに暴露されたことによる多精受精の上昇が胚盤胞発生率を下げる一つの要因になっている。
【感想】この実験では暑熱ストレスへの暴露は限定的で、最大6時間。それでも、41.0℃に暴露されるとこんなにも胚盤胞発生率が落ちるとは驚き。
実際の真夏の牛における連日の暑熱ストレスのことを考えると、もっと悪影響の度合いは大きいのだろう。直腸温度より腟温度の方が高いという論文(10.3168/jds.2017-13799)を踏まえ、平熱を39.0℃と仮定した場合、直腸温で39.5℃の牛は腟温度(生殖器の温度)は39.9℃に、直腸温で40.0℃の牛は腟温度は40.8℃に、直腸温で40.5℃の牛は腟温度は41.7℃になっている可能性がある。これら2つの論文を考慮すると、午後の直腸温で40.0℃を超える牛には人工授精を控え、受精卵移植を推奨した方が良いのだろう。
この夏は全頭直腸温度を測り、これを実践してみよう。
Bibliography
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