腸重積の手術


突然ジタバタと腹痛を起こした牛が、翌日以降、食欲廃絶で全く糞を出さなくなった。4日間、ほとんど水しか飲まず、内科療法にも反応しなかった。徐々に腹囲が増し、右側膁部での拍水音が著しくなった。直腸検査でも盲腸には触れなかった。腹水はうすピンク色で、ほとんど貯留していなかった。何かしらによる腸閉塞と診断し、意を決して開腹手術を実施した。


空腸以下は内容物がほとんど無かったのに対し、第四胃や十二指腸は内容物が多量に貯留していた。腸管を辿っていくと、雑巾の絞ったような感触を触った。この時は腸捻転だと思い、整復は不可能と判断した。しかし、その病変を何とか創面に引っ張って観察すると、何と腸重積であった。

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近位空腸で上流の腸(写真左側の黒色の腸管)が下流の腸(右側のうっ血した腸管)に押し込まれていた。ゆっくり引き出すと、入り込んだ腸管は10~15cmにも及び、黒色に壊死していた。

壊死した腸管の切除も検討したが、創面に引き出すのに限界があり、病巣のさらに近位の腸管を十分に露出できないことから断念した。整復した腸管を温存したまま、閉腹した。後はこの牛の回復力を祈るばかりだ。


THE MERCK VETERINARY MANUALのIntestinal Diseases in Cattleの項に牛の腸重積intussusceptionについての記述がある。 以下、一部を抜粋する。

“Intestinal obstructions are seen sporadically (see Acute Intestinal Obstructions in Large Animals). Cecal dilatation and volvulus are seen predominantly in adult cattle in the postparturient period. Intussusception occurring at the distal jejunum or proximal ileum is the most common cause of complete obstruction in both adult cattle and calves. Ileocecocolic, cecocolic, and colonic intussusceptions are seen less frequently in calves and not at all in adult cattle because of the greater strength of the ileocecal ligament and the presence of mesenteric fat, which stabilize this region of the bowel in older cattle. Intestinal volvulus and volvulus around the mesenteric root are seen sporadically at all ages.”
今回の症例は、記述されているような好発部位ではなかった。

成り立ちについては、腸管の一部に運動麻痺が生じ、その上流部分に蠕動運動の亢進が見られ、蠕動亢進した上流部分が下部腸管腔内に入り込んだ結果として腸重積が起こると書かれている。
(コンパクト 家畜病理学各論, 桐生啓治 町田登 著, 1999, p48より抜粋)

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好発部位は遠位空腸または近位回腸であるようだが、今回の症例では十二指腸近くの近位空腸で腸重積を認めた。

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ところで、牛の腸管はほとんどを小腸が占めている。そして、小腸の中では、回腸はとてもとても短い。国立科学博物館に展示されている牛の腸管の標本を見るとそれを実感する。

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「腸重積の手術」への2件のフィードバック

  1. はじめまして、毎回とても楽しい記事ありがとうございます。

    国立科学博物館の展示ですね!あの博物館はとてもいいですね!
    私事ですがむかし、2日間の東京家族旅行で、ディズニーランドは1日だけで、2日目は国立科学博物館に行きました、4歳児と2歳児には不評でしたが。

    1. >きなこさん

      コメントありがとうございます。「毎回とても楽しい記事」と書かれていて思わず見間違いかと思いました^^;。自分の反省やまとめに使っているだけですので、関係者以外にはグロテスクな写真ばかりで、よもや楽しい人なんているまいと。

      科博、イイですよね。僕もとても愛しています。何度行っても飽きません。うちの子は、恐竜に会えるといっていつも喜んでいます。

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