先日診た、後弓反張と神経症状を呈した新生子牛はすぐに普通の子牛のようになった。
先天性奇形と思いきや、そうではなかったようだ。
人では髄膜炎を伴った新生児が後弓反張を呈することを知り、牛の文献を要旨だけ調べてみることにした。PubMedで子牛の髄膜炎や後弓反張で検索すると、目的とする論文がいくつか見つかった。数は多くない。
J. Vet. Med. Sci. 1992 Dec;54(6):1205-7.
Listeric septicemia with meningitis in a neonatal calf.
→9日齢の子牛が沈鬱、起立・歩行困難を呈し、多臓器の壊死と線維素化膿性髄膜炎を認めた症例の報告。Listeria monocytogenesが分離されている。
Acta. Vet. Hung. 1993;41(1-2):73-88.
Mycoplasmal arthritis and meningitis in calves.
→哺乳子牛のマイコプラズマ性肺炎・関節炎がたまに髄膜炎を伴う。
J. Vet. Med. Sci. 1993 Feb;55(1):141-3.
A case of neonatal calf with meningitis associated with Klebsiella oxytoca infection.
→16日齢の子牛が発熱、起立・歩行困難、眼球の白濁を呈し、線維素化膿性髄膜炎を認めた症例の報告。Klebsiella oxytocaが分離されている。
Res. Vet. Sci. 2004 Dec;77(3):187-8.
Fatal meningitis in a calf caused by Mannheimia varigena.
→Belgian Blue種の子牛の髄膜炎の症例から、Mannheimia varigenaが分離された報告。
J. Vet. Med. Sci. 2007 Apr;69(4):445-8.
A neonatal calf with concurrent meningoencephalitis by Enterobacter cloacae and enteritis by attaching and effacing Escherichia coli (O128).
→神経症状の後に下痢を併発した新生子牛の症例。脳実質の壊死を伴う線維素化膿性髄膜炎および腸管接着性微絨毛消滅性病変を認めた。Enterobacter cloacaeが脳から、Escherichia coli(O128)が腸内容から分離された報告。
上記の論文は細菌性の髄膜炎についての論文。目当てとする、新生子牛での髄膜炎の報告は見つからなかった。(話は変わるが、J. Vet. Med. Sci.に投稿されている論文は、全て岩手県中央家畜保健衛生所の先生が著者であった。すごいなぁ。)
一方、新生子牛の後弓反張については興味深い論文が一つ見つかった。
J. Vet. Med. Sci. 2005 Oct;67(10):1067-70.
A neurological disease with spongy degeneration in a newborn Japanese black calf.
→3日齢の黒毛和種子牛が、生後に後弓反張を呈し、発熱、横臥を伴った症例。中枢神経系から重度の海綿状変化が認められた。臨床的、組織病理学的特徴から bovine maple syrup urine disease (MSUD)が疑われたという報告。
髄膜炎ではないものの、牛のメープルシロップ尿症という遺伝性疾患が中枢神経の海綿状変化を伴い、新生子牛に後弓反張等の神経症状をもたらすようだ。恥ずかしながら、この病名を初めて知った。
*メープルシロップ尿症
メープルシロップ尿症(メープルシロップにょうしょう、英: Maple Syrup Urine Disease; MSUD)とは、先天的な遺伝子の異常によって、α-ケト酸の代謝が阻害されて起きる疾病である。尿や汗からメープルシロップのような特有のにおいがするためこの名が付いた。 また、別名を楓(カエデ)糖尿症ともいう。(Wikipediaより)
結局、僕が診た症例の原因は残念ながら不明のままだ。でももし、この病気(MSUD)なら、すぐに治るなんてことはおそらくないだろうな。調べることで、ひとつお利口になったので良しとしよう。