分娩予定日を大幅に過ぎて生まれたのに、著しく小さいF1子牛がいた。
何とか哺乳するものの、非常に虚弱で起立不能であった。数日間治療するものの、変化は無かった。家畜保健衛生所へ病性鑑定を依頼したが、目立った奇形や感染症はないという連絡があった。では、虚弱子牛症候群であったのだろうか?
虚弱子牛症候群(Calf Weak Syndrome)と言えば、IARS異常症の検査が可能になったのいうニュースが記憶に新しい。IARS(isoleucyl-tRNA synthetase、イソロイシルtRNA合成酵素)遺伝子の突然変異により、酵素活性が38%に低下するそうだ。これが原因で、全てのタンパク質の合成が不調になり、多様な機能障害が発生することで子牛が虚弱になると考えられている。IARS異常症も多くの遺伝性疾患と同様に常染色体の劣性遺伝だそうだ。つまり、この遺伝子がホモでないと発症しない。
改築改良事業団の説明(LIAJニュース141号)によると、IARS異常症は虚弱子牛症候群の1/3〜1/4の原因となっているいうのだから驚きだ。今回の子牛もこの遺伝子が関与しているのかもとか考えていたら、「これまでのところ、黒毛和種以外の和牛やホルスタイン種においてはIARS遺伝子の異常の報告はありません」と書かれていた。これが正しいならば、F1ではIARS異常症は発症しないはずである。いやいや、逆に調べてみる価値があるのかも?
遺伝性疾患といえばOMIAデータベースなので、調べてみた。
Perinatal weak calf syndrome in Bos taurus
IARS異常症の報告は何と1999年から有り、かれこれ16年前だ。以降、原因遺伝子の異常の特定まで日本人研究者が行っていた。そこまでの仕事をすればPLOS ONEに掲載されるのか。原因遺伝子の異常の特定まで行われたから種雄牛の検査ができるようになったのだ。本当にいい仕事してるなぁと見ていたら、報告は東京農業大学の先生であった。